N氏の性春

http://seiai99.blog.fc2.comから引用

 

 

昨日、ある女性と二時間ほど話した。 場所は上野にある「王城」という純喫茶。 
夜は高級クラブにもなりそうな老舗の雰囲気。 
木曜日の昼下がりは人も少ない。
梅雨入り間近の曇り空、湿り気のある風。 
少し汗ばんだ二人は緑地に白の花柄のソファに腰掛けると、 

そそくさと注文を終え、氷水をごくりと口に含んだ。 
 
女性とは初対面だった。
仮にN氏と呼んでみる。 
ツヤんだ頬と病みかけた瞳に妙な落ち着きを感じる。
ほのかなフェロモンの香りを匂わせながら、挨拶。
N氏はここ二年ほどセックスに明け暮れているという。 
アプリか何かで知り合った男に会ってはセックスを繰り返した。 
いや、正確には過去形ではない。 
現にその日も仕事終わりに自宅に男が訪れるらしい。
セックス依存症
そんな言葉も使っていた気がする。 

カフェオレとブレンドコーヒーが運ばれてきた。
僕は甘党なので、砂糖を大さじ一杯、加える。
N氏は黒い液体をそのままにすすった。 


始まりは、数年付き合った男との結婚話から。 

身を固める前に、自由奔放に、乱れてみたい。 

齢30を目前にした「性春」と古い人は見出しを付けるかもしれない。 
退屈な冗談はさておいて、N氏の性春はその時に始まった。 
相手はだいたい年下の男。 
たまには30や50を超えたそれなりにダンディな男も相手にした。 

それでも、やはり若い男の肌ツヤ、体の動きは魅力的だった。 
 
この二年間、N氏は思うがままにイカイカされた。 
スカトロは以外は何でもいけた。 
SMだろうと何であろうと。
首を絞められ、気を失う一瞬の間に絶頂を感じたかと思えば、 

激しさのあまりに時間が止まるようなセックスをする。
まるで死ぬ間際のように、
素性の知れぬ男と体液を絡め合う。 
それも連日連夜。 
時には、倒錯的にレズプレイにアナルプレイ。 
そして、21歳の瑞々しい青年とのスローセックス。 
愛未満の愛を感じながら、 
N氏は一年ほどのセックスライフを終えた。 
やり尽くした。
あらゆるセックスを経験し、一周した。 
そう、N氏は感じたと言う。


二人は小声で卑猥な言葉を交わしていた。
それが余計に卑猥に聞こえた客がいたのかもしれない。
ここは純喫茶。 
彼らは果たして、二人の関係をどんなものだと妄想したのか。
セフレ? 
彼氏? 
風俗業? 
全部、違う。 
僕とN氏は実際には何の関係でもなかった。 
あえて言えば、あぶくみたいな関係。
時々、出会って、すぐに消えていく。 
ぬるぬるの表面張力に支えられた二人。 
それは名付け得ない関係性。 
(つづく)